雅な伝統の世界に誘う、滋賀県・米原&彦根の名勝めぐり【後編】
無の境地を目指す禅の思想を受け、石や砂・植物を用い自然や宇宙を表現する『枯山水』、古くは神社の境内に見られた神池・神島を起源とし、池を中心に芸術的な世界を描く『池泉』など、日本では古来より高度な造園技術が築かれてきました。
今回は前編の記事に続き、滋賀県・米原&彦根の名勝・庭園をご紹介。各地で拝見できる個性豊かな庭園を、心ゆくまでお愉しみください。
※2023年3月31日現在の情報です。
【彦根】龍潭寺:3つの庭が調和する“造園学”発祥の地
JR米原駅を出発し、普通電車で約5分。勇ましい井伊直政の騎馬像が迎えるのは、日本屈指の名城・彦根城が待つ彦根駅。今回はお城に向かう前に、井伊直政ゆかりの地・佐和山を目指します。
線路沿いの桜並木に目を奪われながら、ゆったり歩くこと20分。ふたつ目の目的地である「龍潭寺」に到着です。
奈良時代、東大寺建立にも携わった仏教僧・行基が、遠江(とおとおみ)国〈現在の静岡県〉井伊谷に龍潭寺を開基。井伊直政が佐和山城主になったことを機に、直政と同郷であり、関ケ原の戦いでも活躍した昊天(こうてん)禅師により佐和山麓に移建開山されたのが、こちらの彦根・龍潭寺です。
竹垣が続く参道は背の高い木々が多く、凛とした空気は、深い森の中にいるかのよう。本堂への入口は、巨大なしだれ桜が案内してくれます。
龍潭寺で拝見できる庭園は3つ。まずは入口にもっとも近い、方丈南庭・ふだらくの庭に向かいましょう。
先程の「青岸寺」と同じく、“補陀落山(ふだらくさん)”の情景を模した枯山水のこちらのお庭は、白砂と大小四十八の石で成り立っています。白砂は大海、砂紋はさざ波、庭の向こう側にある垣根は前が水平線、後方は遥か彼方の雲を表しているのだとか。
また、中央の石組でひときわ映える大きな立石は観音様の立ち姿、傍らにある横長の石は仏の世界と現世を結ぶ渡し舟・彗咢(えがく)の舟を表しています。
ちょうど日が差し込む時間帯という事もあり、お庭には一筋の光が。あまりにも幻想的な風景で、目の前に仏様が降臨されるのではないかと思いました。
続いて長い廊下を渡り、書院庭園へ。こちらでは左右で対照的な、ふたつの庭を観ることができます。
まずひとつ目は、大きな池が印象的な書院東庭 鶴亀蓬莱庭園。「龍潭寺」を開山した昊天和尚と、近江出身の大名茶人・小堀遠州(こぼりえんしゅう)合作の名庭で、彦根市の指定文化財となっています。
佐和山を借景(庭園の風景)に取り入れた緑豊かなお庭は、眺めているうちに自然と心が解けていくような、なんとも穏やかな風景。時折カエルや鳥の声が聞こえ、牧歌的な心地良さを醸し出しています。
こちらの庭園には、縁起物の象徴である“鶴”を模した石組と“亀”を模した岩が配置されています。お庭をじっくり眺めて、見つけてみてくださいね。
庭園の左側に見えるのは、国内でも最高と称される直下型の枯れ滝“龍門瀑”。枯れ滝とは枯山水庭園でよく用いられる、水を使わずに“滝”を表現する造園手法のこと。鶴亀蓬莱庭園では、飛沫をあげながら流れ落ちる滝の勢いが、段々の石組で見事に表現されています。
書院横に造られたもうひとつの庭園が、書院北庭 露地庭園。
新緑がまぶしいこちらの庭園には、レンゲツツジや百日紅(サルスベリ)、半夏生や椿など、数多の植物を目にすることができます。それぞれ見頃の時期が異なるため、春夏秋冬いつ訪れても、違った表情を愉しめるのが、このお庭の魅力。実は、学僧の修業庭園として造られたものと言われています。
それもそのはず。ここ龍潭寺は日本の造園専門学「園頭科(えんずか)」発祥の地。こちらで学んだ僧たちが全国の禅寺の庭園を手掛けたことは、広く知られています。
龍潭寺の庭園が名だたる造園家たちのお手本になっていると考えると、感慨深いもの。3つの庭園を散策しながら、お気に入りのお庭を見つけてくださいね。
◆龍潭寺
〒522-0007 滋賀県彦根市古沢町1104
電話番号:0749-22-2777
開門時間:9:00~16:00
拝観料 :一般 400円/小・中学生 150円
参考サイト:https://www.biwako-visitors.jp/spot/detail/1205
【彦根】玄宮楽々園:名城の町が誇る大名庭園の最高傑作
龍潭寺を後にし、線路沿いから住宅街を抜け、30分ほど歩いて彦根城へ。約1,000本の桜が取り囲む外堀をまわり、国指定名勝・玄宮園へと向かいます。
彦根城への入城券とセットになった観覧券を手に入れ、いざ入園。門をくぐり小径を抜けると、そこには想像を遥かに超える大規模な庭園が広がっていました。
“玄宮楽々園”とは、大規模な池泉回遊式庭園である“玄宮園”と、御殿に望む池泉・枯山水庭園である“楽々園”の総称。延宝5年(1677年)に築造された頃は彦根城の北部内堀と、かつて存在していた琵琶湖の内湖との間に存在していました。
立派な幹を持つ松や若葉が茂るモミジの木を眺めながら散策していると、中島を結ぶいくつもの橋と、茶屋があることが分かります。これは玄宮園がかつて茶会を中心とした社交場であったなごりなのだとか。
江戸時代当時の庭園といえば、大名たちのステータス。客人をもてなす場であると共に、自慢の造園技術を競い合う場でもありました。
玄宮園はいまでもお茶席を愉しめる茶屋があり、優雅な野点傘の下、お抹茶とお茶菓子をいただくことができます。大名気分に浸りながら、日本が誇る名勝を心ゆくまでご堪能ください。
天気が良い日は、池の表面に注目。
静かな水面に逆さの庭園が映り込み、水の中にシンメトリーの世界が現れます。
シャッターチャンスを狙うなら、青空がくっきりと浮かぶお昼間か、グラデーションが美しい夕暮れがおすすめ。撮影場所によって彦根城を背景に収めることができるので、ベストポジションを探してみてくださいね。
東門から池に沿ってぐるりとまわると、楽々園に到着。彦根藩主・井伊直輿(いいなおおき)によって建立された下屋敷(大名・上級武士などの別邸)の範囲にあり、江戸時代には“欅(けやき)御殿”“黒門外屋敷”などと呼ばれていましたが、現代では12代彦根藩主・井伊直亮(いいなおあき)が設けた「楽々の間」にちなみ、「楽々園」として親しまれています。
こちらの「楽々園」は1679年の完成後も増改築を繰り返し、一時は能舞台を備えるほどの大きさになりましたが、現在では10分の1ほどの規模にまで縮小しています。
敷地内には耐震構造を備えた茶座敷「地震の間」、“煎茶の茶室”として近年注目されている「楽々の間」など、数々のお部屋が築かれていました。現在は外からのみ見学可能ですが、不定期で御書院建築内部の特別公開を行っているそうなので、ご旅行の際にはぜひチェックしてみてくださいね。
広大な土地の手前には砂利の枯池、中景には枯滝石組。さらに奥に見える玄宮園を贅沢にも借景として利用した枯山水の庭園は、まさに“絶景”。江戸時代初期の庭園では、すでに“名庭”と謳われていた「青岸寺」から庭石を運んだ記録があり、当時から造園にかけるこだわりぶりが分かります。
欅御殿は“隠居所”としても使われていたとの事ですが、官職を手離し、ゆったりとお庭を見ながら過ごす日々は、さぞかし心癒されたことでしょう。
現在「楽々園」は建物の老朽化のため、中長期的な計画のもと、保存整備事業が行われています。この素晴らしい風景が未来永劫愉しめることを願いながら、お庭めぐりをご堪能ください。
◆彦根城玄宮園
〒522-0061 滋賀県彦根市金亀町9-3
電話番号:0749-22-2777
開門時間:8:30~17:00
拝観料 :彦根城とのセット券 一般 800円/小・中学生 200円
参考サイト:https://www.biwako-visitors.jp/spot/detail/1205
GFC奥琵琶湖湖から、滋賀県各地の庭園めぐりへ
今回は四季折々・様々な風景を愉しめる滋賀県米原・彦根の名勝・庭園3選をご紹介しました。GFC奥琵琶湖レイクシアの最寄り駅・永原駅から米原駅まではJR湖西線から北陸本線への乗り継ぎで約50分、彦根駅までは約60分と、観光にぴったりです。
これから初夏にかけて青葉が輝き、お庭が一層美しく見える季節。ぜひこの機会に、名勝・庭園めぐりを愉しんでくださいね。