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【水を活かし、水と生きる町】生水(しょうず)の郷・針江を巡る旅

町全体を駆け巡る清らかな水、その流れに身を任せ、命を育む生き物たち…。

滋賀県の北西部に位置する新旭町針江地区に住む人々は、町に流れ込む安曇川(あどがわ)水系の豊かな恵みを活かした独自のライフスタイルを生み出し、今日までその美しい営みを続けてきました。

今回はそんな生水(しょうず)の郷・針江の魅力をクローズアップ。地元のガイドスタッフの方の貴重なお話を交えながら、“水は宝”という言葉を軸に針江が築き上げてきた“水文化”についてご紹介します。

 

水仕事は自慢の湧き水で!針江独自の設備“かばた”を拝見

大阪駅から湖西線経由敦賀行きの新快速電車に乗ること約1時間15分。のどかな田園風景を眺めながらシートに身を預けていると、流鏑馬(やぶさめ)の像が出迎える「新旭駅」に到着しました。今回の目的地となる針江地区は、この新旭駅から車で約5分の場所にあります。

針江地区に向かう間、随所で目にするのは、大小さまざまな大きさの水路。どの路にも豊かな水の流れがあり、時折小魚やサワガニが顔を覗かせます。

針江の町に行き渡るこの水は、近くを流れる安曇川の伏流水。“関西のアルプス”とも称される比良山系に降った雪や雨が伏流水となり、針江地区に清らかな湧き水をもたらします。

「針江ではこの自噴する水の事を“生水(しょうず)”と呼んでいます」。そう教えてくれたのは、針江の案内人を務める地元のガイドスタッフさん。普段は針江地区の見所やお店の紹介をされていますが、今回はご自宅にある“かばた(川端)”を見せてもらう事となりました。

かばた(川端)とは、湧き水を飲料水や炊事用水として活用する生活用水システムのこと。各家庭の敷地内に自噴する湧き水をポンプで圧送して使います。針江地区には110ヵ所もの湧き水があり、この内の90ヵ所が家庭用の“かばた”として利用されているのだとか。

上水道が整備されるまでは針江地区に住む人にとって、かばたは無くてはならない存在だったそう。「かばたには家の中にある“内かばた”と、屋外にある“外かばた”の2種類があります。今回は我が家の“内かばた”をお見せしますね」

ガイドスタッフさんからかばたの説明を聞きつつ、炊事場の方へと進んでいくと…

ありました!石造りの溜め池のように見える、こちらが“内かばた”です。

かばたを見てまず驚いたのは、その水の透明度。槽の底までくっきりと見える水の中には、大きく育った鯉が優雅に泳いでいます。

「かばたの水温は約14℃。一年を通してこの水温が保たれているので、夏は冷たく、冬は温かく感じますよ。特に夏は畑で採れた野菜を水に浸しておくと、冷えすぎることもなく新鮮な状態をキープしてくれるので、冷蔵庫代わりに利用しています」

そう話しながらガイドさんが採れたてのトマトを浮かべてくれたのは、“すすぎ水”が流れる“壺池”。かばたは湧き水が流れ込む元池、水をくみ上げる壺池、最後に水をためておく端池の3つの槽から成りたち、それぞれ飲料用・すすぎ用・漬け置き用と使い分けられています。

畑で採れた野菜や食器を洗う時は、まず端池にためている漬け水で汚れを浮かせてから、壺池のすすぎ水で洗浄。洗剤を使わずとも、水の力で汚れがサラサラと流れていく様子が爽快です!土や小さな食べ残しなどは端池に放流している鯉が食べてくれるので、常に水を清潔に保つことができるのだとか。

「私の住む家は曽祖父の代から続いているので、もう100年近くも湧き水の恩恵を受けています。ぜひ我が家自慢のお水を飲んでみてください!」

ガイドさんからコップを受け取り、湧き水を汲んで一口。すぅっと喉を抜けるその味は、一切の雑味が無く、まさに透き通るようなおいしさ!口に入れた瞬間体内を駆け巡り、自然と全身に染み渡る感覚が、なんとも衝撃的でした。

「針江地区には、人々の生活を支えてくれる湧き水が町のあちこちにあるんです。ここからは針江観光でぜひ見ていただきたい、町中の名水スポットをご案内します」

 

歴史を紡ぎ命を育む、針江ならではの水文化

かばたを離れ、まず最初に訪れたのは、歴史情緒漂う「正傳寺(しょうでんじ)」。保延年間の創尊と伝えられ、慶長15年(1610年)までの約470年間は、それぞれの時代に住職を務めた方が持する宗旨を奉じていたと言われています。江戸時代、永平寺の禅師を迎えて以降は曹洞宗に改宗。その頃から「永平寺直末中本寺格」として、近江三ヵ寺のひとつとなりました。

境内でひときわ目を惹くのが、針江の豊かな恵みを象徴する“亀ヶ池”。薬師如来像が見守る池の中心からはコンコンと清水が湧き上がり、その光景はまさに“生きる水=生水(しょうず)”そのもの。池の中には水草が揺らめき、水上にはシオカラトンボが産卵場所を求めて飛び回っていました。

「実は、この正傳寺の敷地内にも“かばた”があるんですよ」。

ガイドさんの案内で見せていただいたのが、こちらのかばた。

周りには緑鮮やかな苔や植物が自生し、湧き水の美しさを物語ります。そしてなんと、こちらのお水も飲むことができるのだとか!

口にしてみると、先程の内かばたとは打って変わって、まろやかな口当たり。舌で味わうとほんのり甘みを感じ、「同じかばたでもここまで風味が違うのか」と驚きを隠せませんでした。

「屋外に設けられたかばたは、地元の人々にとって身近な給水ポイント。針江地区に住む子供達は、通学途中に喉が渇いたらかばたで気軽に水分補給ができるので、水筒要らずなんです」

ガイドさんの言葉通り、町を散策していると至る所にかばたを発見!


ひしゃくを設けていたり、季節のお花を活けていたりと、かばたを使う方への心遣いが見られます。

ただし、町中にあるかばたは、あくまでも道行く人の喉を潤すために、地元の方のご厚意で開放されているもの。タンクやペットボトルを使った水の持ち帰りは禁止されているのので、ご注意ください。

歴史ある町並みをさらに進んでいくと、広々とした川が見えてきました。

町の中心を走るこの川は「針江大川」。安曇川扇状地の湧き水を集めて流れる川で、かつては田舟が行き来する水路として利用されていたそうです。


※参考画像

川底に見える無数の藻は“梅花藻”。水温が14℃前後の美しい水の中でしか育たず、生育環境が限られているため、「幻の花」とも呼ばれています。

「梅花藻の見頃は7月初旬~9月中旬頃。今はつぼみが多いですが、花が咲くと白と緑のコントラストが綺麗に見えるんです」

豊かな川で育つのは、植物だけではありません。濁りのない澄んだ水の中は、魚や水棲生物たちの絶好の住処でもあります。

もっともポピュラーな川魚は“鯉”。針江では川の至る所で、野生の鯉が悠々と泳ぐ姿を見ることができます。

さらに“清流の女王”と呼ばれるや、美食家・北大路魯山人も愛したという小魚“ゴリ”なども生息しているのだとか。

「子供の頃は川が一番の遊び場で、夏休みには友達と水遊びをしたり、釣りをしたり。幼少期から過ごしていた場所なので、自然と水や生き物を大切にする気持ちも養われていきました。川の近くには滋賀特産の織物『高島縮(ちぢみ)』の工房があるのですが、その作業に使う発泡スチロールの板を浮き輪代わりに泳いでいました」

「針江大川」に架かる橋のたもとから川の近くまで降りてみると、水の勢いに思わず圧倒されてしまう程。川のせせらぎが耳に心地良く、しばし暑さを忘れて涼むことができました。ふと橋の方を見上げると、虫取り網を片手に走っていく子供たちの姿が。古き良き日本の原風景を見ることができる所も、針江散策の醍醐味です。

 

針江自慢の水を堪能できる「川島酒造」でお土産探し

針江には前章でご紹介した「高島縮」以外にも、水の恵みを堪能できる特産物が充実しています。

例えば創業120年以上の歴史を持つ「上原豆腐店」は、豆腐作りに生水(しょうず)を使用。なめらかな舌触りと大豆の豊かな風味は、地元の水の力があってこそなのだとか。

また、店外に大きな生け簀を持つ「おさかな旭」では、鮎やゴリ、スジエビといった川魚や湖の幸を使った佃煮を販売。昔ながらの釜炊き製法で作る佃煮は、滋味深く噛むほどに旨みがあふれ、ごはんが何杯でも進む美味しさです。

そしてもうひとつ、水の力が欠かせないものと言えば、“お酒”。中でも滋賀県は関西屈指の米処でもあり、数多くの銘酒が生まれています。今回は江戸時代後期から針江で日本酒造りに励む「川島酒造」を訪問しました。

「当蔵では安曇川流域の契約農家から仕入れた『山田錦』をはじめ、滋賀県産の酒米を使った酒造りを行っています。仕込水に使うのは、もちろん地元の生水(しょうず)。超軟水で他地域のお水と比べて甘みが強いので、辛口のお酒でもまろやかに飲みやすく仕上がります」

対応してくださった店員さんのお言葉通り、試飲をさせていただいたお酒はどれもほんのりと甘く、やさしい口当たり。そのうえ後口はすっきりとキレが良く、日々の晩酌にふさわしい一杯となっています。

「川島酒造」の主要銘柄は『松の花』。力強くも優美な名称の由来は、創業時、酒蔵建設のため伐採した古い松に対する忍び難い思いが込められているのだそう。滋賀県の酒造好適米『玉栄』を主原料に造られた一献は、繊細な香りと清楚な味わいが魅力です。

「川島酒造では日本酒の他にも梅酒や柚子酒といった果実酒もご用意。最近ではウイスキーの醸造も始めています」

ウイスキーは現在スコットランドの蒸留所から取り寄せたものを日本の新樽で1年以上追熟させた『TARLY(ターリー)』を販売。今後は「琵琶湖蒸溜所」としてブランドを立ち上げ、日本特有のミズナラの樽で醸した自家製ウイスキーの製造にも力を入れていくのだとか。

生水(しょうず)を生かし、生水(しょうず)の新たな可能性を求めて常に進化を続ける「川島酒造」。飽くなき挑戦から生まれる珠玉の味を、ぜひご自宅でもお愉しみください。

 

針江探訪を愉しむなら、地元への誇りと愛を感じる見学ツアーへのご参加を

暮らし、景観、文化。町を構成するすべての要素に“生水(しょうず)”の力が根付く針江地区。近年ではこの豊かなライフスタイルに憧れを抱き、観光や移住に訪れる人も増えてきたと言います。

その反面、かばたを一目見ようと民家に侵入したり、川に外来種の生き物を逃がしたりと、マナーの悪い人々が徐々に見受けられるようになりました。

「純粋に針江観光を愉しみに来てくれる方のために、何かできることはないか。地元のメンバーで知恵を絞り編み出したのが、ボランティアガイドによる針江の見学ツアーです」

針江公民館からスタートするこちらのツアーは、ガイドスタッフが引率し、見学を許可してくださったお家のかばたと溝川を見てまわる約1時間のコース。ガイドの内容は各スタッフに一任されているそうで、お話しされる方によって異なる針江のエピソードを聞けるのだとか。

「最初は案内用の台本を用意していたのですが、『地元に住んでいる方の実体験やリアルな話を聞けた方が面白いのではないか』との声があがり廃止に。今では針江にまつわるいろんなお話を聞こうと、何度もツアーに参加してくださる方もいらっしゃいます」

見学ツアー発足において最初に考えられたのは、「地元で暮らす人々の生活を脅かさない事」「ツアーは儲けのためにやっているのではない。針江は観光地ではない」という共通認識のもと、参加者の規模を抑えたり、見学料を地元の環境保全に還元したりと、さまざまな工夫をされているそうです。「地元に暮らす人々にとって、針江の水は生活に必要不可欠な、かけがえのないもの。見学ツアーのおかげで、針江の貴重な水資源を守りながら、お客様に愉しんでいただける仕組み作りができました」。

町の随所にある立札に記されているのは、“水は宝”という言葉。暮らしを支え、命を育み、町を潤してくれる自然の恵みを、針江の人々は未来に向けて、大切に守り抜いています。

GFC奥琵琶湖レイクシアから針江地区までは、車で約40分。悠久の自然と趣ある町並み、なによりも地元の水文化をこよなく愛するガイドスタッフの皆様に会いに、“生水の郷”を訪ねてみませんか?

◆針江生水の郷 見学ツアー

住所:〒520-1502 滋賀県高島市新旭町針江315(針江生水の郷委員会事務局)
電話番号:0740-25-6566
Email:shozunosato@lapis.plala.or.jp
ご案内時間:【午前の部】10:00~【午後の部】14:00~(いずれも約1時間)
見学料:大人 1,000円・高校生~小学生 500円・幼児 無料
公式サイト:https://harie-syozu.jp/guide/
お申し込みフォーム:https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdpAz2khX499iCMUJCmMK0HB3CnZHZe43CytENUncKYKnYU4A/viewform
※ガイド手配のため、ご見学希望日の5日前までにご予約ください。
※悪天候や他イベント実施のため、ご見学ができない場合がございます。あらかじめご了承くださいませ。
※詳細は公式サイトよりご確認ください。

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